STAP細胞の小保方晴子さんですが、彼女は大丈夫なのでしょうか? まさか佐村河内さんみたいになるってな事はありませんよね? もっとも、利に聡い佐村河内さんの方では、早くも「二人で一緒にユニットを組もうよ♡」などと考えているのかもしれませんけどね・・・あはは・・・
前回、モーパッサンの短編集をご紹介いたしましたが、短編小説といえばこの人を忘れるわけにはまいりません。言わずと知れた短編小説の名手、O ・ヘンリーです。
彼の作品には、モーパッサンの作品から感じるようなデモーニッシュなものはありませんけど、その代わりストーリーテラーとしての上手さはピカイチです。すごい。素晴らしすぎます。
私はO ・ヘンリーの物語を組み立てる《腕》を尊敬し、またその《腕》に憧れます。
ところで、O ・ヘンリーの「O」って何の略だ? オズワルトか? オスカーか? そうお考えになった方もいらっしゃると思います。でも、これはただの「O」なんですよね。何の略でもありません。O ・ヘンリーという名前そのものが適当に付けられたペンネームですので、「O」なんか本当にどうでもよかったんでしょうね、彼には。あはは。
今回は大久保康雄訳「O ・ヘンリー短編集」(新潮文庫)からいくつかの作品をご紹介いたしますけど、どれも素晴らしい傑作ばかりですので、もしまだお読みになっていない方がいらっしゃったら、ぜひ読んでみてくださいね。心が豊かになる気がしますよ。
「警官と賛美歌」
冬の間は暖かい刑務所で過ごすのを毎年の恒例にしている浮浪者のソーピーは、今年もまた刑務所に入るべく無銭飲食や窃盗を働くものの、なかなか調子よく警察に捕まらない。そして・・・
「赤い酋長の身代金」
身代金目的で金持ちの息子を誘拐した二人組み。ところが、誘拐した少年が地上最悪の悪ガキだったから、さあ大変。果たして二人の運命やいかに?
「賢者の贈りもの」
貧乏な若夫婦。貧乏すぎてクリスマスプレゼントを買うお金もない。しかし、妻のデラは、その家唯一の財産と言って良いであろう、夫ジムが祖父から譲り受けた金時計につけるプラチナの鎖を、どうしてもプレゼントしてあげたいと思っていた。
そこで、デラは自慢の長いブロンドの髪を売り、鎖を買う。帰宅したジムはデラの変り果てた姿に驚く。だが・・・
「最後の一葉」
芸術家が集まるアパートに住む肺病やみの女性ジョンジーは、窓から向いのビルの壁を覆う蔦(つた)の葉っぱを眺めながら、あの蔦の葉がぜんぶ落ちた時が自分の死ぬ時だと信じ込んでいる。
嵐がやって来た。この嵐で蔦の葉はぜんぶ落ちるだろう。そして、わたしの命も・・・とジョンジーが思っていたところ・・・
「にせ医師物語」
映画「スティング」(1974)のヒントになったようなお話。
医者になりすました詐欺師のジェフは、でたらめな治療を施して市長から大金をせしめようと企む。ところが、市長から報酬の金を受け取ったまさにその時、別室に控えていた刑事に逮捕されてしまう。ジェフの正体はとっくに市長にバレていたのである。ところが・・・
「都会の敗北」
大都会で弁護士として華々しい成功を収めたロバートは、上流階級出身の美しい妻アリシアを連れて、生まれ故郷の田舎へ帰省する。
久しぶりに故郷へ帰った嬉しさで、普段の優雅で上品な物腰はどこへやら、ロバートは弟たちと歓声を上げて狂ったようにはしゃぎ回る。
(しまった、アリシラに田舎者の本性を知られてしまった。きっとアリシラはこんな俺を軽蔑するだろう)
そう思ってしょげ込んでいるロバートに、アリシラがこう言う。
「わたしは紳士と結婚したと思っていました。でも、いまわかりましたの、わたしが結婚したのは、もっと素晴らしい一人の男性だったということが」
そして、最後は、私が最もお気に入りの「よみがえった改心」です。
大銀行の金庫を荒らして大金をせしめたあと姿をくらました金庫破りの名人、ジミイ・ヴァレンタインは、ある町で靴屋のラルフ・スペンサーになりすましていた。ラルフの店は大繁盛し、彼は町の名士となり、銀行家の娘アナベルと婚約するまでになっていた。
一方、ジミイ・ヴァレンタインを追って町にやって来た刑事のベン・プライスは、ラルフがジミイである証拠を掴もうと、密かにラルフを監視していた。
ラルフの方も、自分がジミイである証拠となる《金庫破り道具一式》を処分するため、リトル・ロックという町へ行こうとしていた。道具をスーツケースに隠し、表向きは婚約者アナベルに素敵なプレゼントを買うためという口実で。
リトル・ロック行きの汽車が出る前、ラルフとアナベルは、アナベルの父アダムズ氏が経営する銀行へ立ち寄る。アダムズ氏が、大勢の人を前にして、新型金庫室のお披露目をしていたのである。観客の中にはベンも潜り込んでいた。
ところが、お披露目の最中に、九つの女の子メイが、ふざけて妹のアガサを金庫室に閉じ込め、鍵をかけてしまったから、さあ大変。大騒ぎになるものの、困ったことに鍵の開け方を知る者は、リトル・ロックまで行かないといなかった。金庫室の中は空気が少ないし、真っ暗な金庫の中に閉じこめられ恐怖で泣き叫んでいるアガサは、一刻も早く救出してあげないとひきつけを起こして死んでしまうだろう・・・
さあ、ここからです。
スタインベックの「朝めし」と同じく、大久保康雄先生の名訳でお楽しみください。
アガサの母親は、いまは気も狂わんばかりで、両手で金庫室のドアを叩いていた。途方に暮れたあげく、誰かが、ダイナマイトを使ったら、と言いだした。アナベルは、苦痛にみちてはいるが、まだ絶望しきってはいない大きな目で、ジミイの方をふり向いた。女性にとっては、自分の尊敬する男の力に不可能なことは何ひとつないように思えるらしい。
「何とかできませんの、ラルフ・・・やってみてください」
ラルフは唇と鋭い目に、奇妙な、やさしい微笑をうかべて、彼女を見た。
「アナベル」と彼は言った。「あなたがつけているその薔薇をくれませんか」
何か聞きちがえたのではないかと耳を疑いながらも、彼女はドレスの胸からピンでとめた薔薇の蕾をはずしてスペンサーの手に渡した。ジミイはそれをチョッキのポケットにおしこみ、上着を脱ぎすて、シャツの袖をまくりあげた。そうした動作と共にラルフ・D・スペンサーは消えうせ、入れかわってジミイ・ヴァレンタインがあらわれた。
「さあ、みなさん、ドアの前からどいてください」と彼は短く命令した。
彼は例のスーツケースをテーブルの上において、二つに開けた。その瞬間から、他のものの存在などは、まったく意識にないようであった。ぴかぴか光る奇妙な七つ道具を、手ばやく、順序よく、とり出すと、仕事にかかるときにはいつもそうするように静かに口笛を吹いた。しいんと静まりかえり、身動き一つしないで、ほかの人たちは魔法にかかったようにジミイを見まもっていた。
一分もすると、ジミイの愛用のドリルが鋼鉄のドアになめらかに食いこんでいった。十分たつと彼は・・・彼自身の金庫破りの記録(レコード)を破って・・・閂をはねあげて扉を開けた。
アガサは、死ぬほど弱ってはいたが、それでも無事に母親の腕に抱きしめられた。
ジミイ・ヴァレンタインは上着をつけ、木柵の外へ出て正面の入口のほうへ歩いて行った。歩きながら、はるか遠くで、聞きおぼえのある声が「ラルフ!」とよぶのを聞いたように思った。だが彼は、すこしもためらわなかった。入口のところで、彼の行く手に大きな男が立ちふさがった。
「やあ、ベン」まだ奇妙な微笑をうかべたままジミイが言った。「とうとうやってきたね。さあ、行こう。もう、どうころんでも、たいしたちがいはなさそうだからね」
つぎの瞬間、ベン・プライスは、いささか奇妙なそぶりを見せた。
「何かのまちがいじゃありませんか、スペンサーさん」と彼は言った。「私があなたを知っているなんて、とんでもないことです。あなたの馬車が待っているじゃありませんか」
そう言って、ベン・プライスは、くるりときびすをかえして、ゆっくりと通りを歩み去って行った。