女性に対する硫酸ぶっかけ事件のお陰でと言っちゃ変ですけど、珍しく高崎の風景が全国放送のニュースで流れました。皆さんもご覧になりましたでしょう? 高崎駅やショッピングセンター「アピタ」の映像を。いずれも私にはお馴染みの場所です。ちなみに、いま穿いているパンツは「アピタ」で買ったものです(苦笑)。
ニュースといえば、維新の党の上西小百合議員のスキャンダルが問題になりましたね。ただでさえ評価が下がり気味の大阪都構想に、さらなるダメージを与えかねない上西議員の行動に、橋下徹さんは怒り心頭のご様子でしたけど、そもそも大阪都構想って何の意味があるのでしょうか?
もともと橋下さんが大阪府知事時代に、府から独立した存在と言える政令指定都市・大阪市が自分の言う事に従わないのに腹を立て、「そんなら大阪市から権限を奪ってやる」とばかりに始めたのが、今回の大阪都構想でしょう?
無駄な二重行政を無くせ! 公務員の数を減らせ! 民間に出来る事は民間に任せろ!etc・・・と一昔前の小泉構造改革みたいな事をさかんにおっしゃっておりますけど、これらはすべてデフレ下にある現在の日本ではおこなってはいけない政策ばかりですし、実際、小泉・竹中の経済政策により地方は疲弊し、格差社会がひどくなったではありませんか? 橋下さんはもういちど同じ事を繰り返したいのでしょうか?
結局、大阪都構想が実現すると、大阪市が稼いだお金が周辺の小さな市町村の為に使われて、大阪市が損をするだけではないでしょうか? ですから、大阪市民にとってはありがたくない制度なのでしょうね。
さて、今日の本題に入ります。
まえにも一度どこかで申しましたけど、私の世代の男の子のヒーローといえば、架空の存在であるウルトラマンや仮面ライダー等を除けば、映画ではブルース・リー、音楽では矢沢永吉、プロレスではアントニオ猪木、テレビでは萩原健一(ショーケン)と松田優作でした(この他に私ら文学少年の間では村上龍がヒーローでした)。
そして、この中で最も影響が大きかったのがショーケンです。ショーケンは当時の若者のライフスタイルに決定的な影響を与えました。
テレビドラマ「太陽にほえろ!」のマカロニ刑事役で当代一の人気者となったショーケンは、人気絶頂の最中、とつぜん番組を降板します。マカロニ刑事が強盗に刺殺されたという話にして。
人気番組の主人公が殺される!
そんな番組はそれまで存在しませんでしたから、マカロニ刑事の死は単なるドラマの枠を超えて一種の社会的事件となりました。
「太陽にほえろ!」を卒業したあと1975年までの間に、ウィキペディア情報によりますと、ショーケンは様々なテレビドラマに出演しておりますが、「風の中のあいつ」、「同棲時代」、「祇園花見小路」、「新宿さすらい節」は、当時わたしが住んでいた北海道北見市では放送されなかったのか、観た記憶がありません。
私の記憶にありますのは、西村晃さん(彼は「傷だらけの天使」にも刑事役で出演している)や鈴木ヒロミツさんらと共演したNHKドラマ「河を渡ったあの夏の日々」と
NHK大河ドラマ「勝海舟」の岡田以蔵役。
それから、当ブログの記事「NHK大河ドラマの若手俳優」の中でいちど言及した、島田陽子さんとの共演ドラマ「くるくるくるり」です。ショーケンが車引きを演じたこの「くるくるくるり」はたいへん面白かったので、また観てみたいです、私は。なにしろ40年前に観たきりですから。あはは(汗)・・・
そして、ショーケンのドラマの決定版が、遂に登場いたします。それが、今回のタイトルにもなっております「傷だらけの天使」です。
放送当時こそ暴力シーンやエッチなシーンの多さから《有害番組》のレッテルを貼られたものの、今では日本のテレビドラマの金字塔と称される名作です。
ショーケンの著書「ショーケン」によりますと、日本テレビから「何でも好きなものを作って良い。視聴率が悪くても構わない」と言われたショーケンは、仲の良いスタッフや役者を集めてこのドラマを作り上げたそうです。
すなわち、ショーケンは単なる演者ではなく、プロデューサーでもあったわけです。
そうして集まったスタッフたち・・・監督は深作欣二、神代辰巳、工藤栄一、恩地日出夫・・・メインライターは市川森一・・・音楽は「太陽にほえろ!」に引き続き井上堯之バンド・・・
上のレコードジャケット写真をご覧ください。白いスーツ姿のショーケンが、赤い薔薇の花束を手にして、泣きそうな顔をしている・・・こういうのが好きなんでしょうね、ショーケンは。
レコードジャケットひとつにも、ショーケンの美学が息づいているように思います。
そして、「傷だらけの天使」のテーマ曲は、「太陽にほえろ!」のテーマ曲同様、歌の無いインストルメンタルなのに大ヒットいたしました。私たちはカッコいい「傷だらけの天使」のサウンドにシビれたのです。時代の先を行く音楽だと思いました、当時は。
しかしながら、「傷だらけの天使」はおしゃれでハイセンスな音楽だけで成立しているのではありませんのでして、劇中に度々ぴんからトリオの「女のみち」や
殿さまキングスの「なみだの操」など当時ヒットしていた演歌の曲が挿入されるのですが、これがまた妙にマッチして、ドラマに厚みというか良い味を与えております。
おしゃれなのは何も音楽だけではありませんよ。ファッションがまた素晴らしかった。「傷だらけの天使」のファッションを担当したのは、メンズBIGIの菊池武夫さん。
私たちは、ショーケンの着るおしゃれなスーツやコートに激しく憧れたものです(そのせいか、私は今でもメンズBIGIのスーツやコートを愛用しております。私が愛するファッションブランドは、BIGIとVANですw)。
ただし、その反面、ショーケンは劇中よくステテコを穿いたり、腹巻を巻いたり、褌を締めたりもしているんですよね。
音楽と同じように、ただ単におしゃれな恰好をするだけでなく、わざとダサい恰好もするところが、逆におしゃれ度を高める結果になっておりました。
また、本作の主人公ふたりの住居もおしゃれでした。代々木にあるビルの屋上のペントハウス。
ペントハウスというか実際はただの小屋なんですけど、それでもビルの屋上にある小屋に住む! うわ、何てステキなんでしょう! 実に都会的だわ! と田舎者の私は憧れたものです。
ロケに使われた代々木会館ビルはまだ残っていて、現在は「傷だらけの天使」ファンの聖地となっております。ただ、老朽化して危険なため、屋上へは上がれないそうです。
本作のオープニングが、またおしゃれなんですわ。
タイトルが出てテーマ曲が流れ始めた途端、ヘッドフォンを耳につけたままショーケンがベッドから起き上がり、冷蔵庫から食べ物を取り出すと、トマトやコンビーフをむしゃむしゃ食べ始める・・・
このシーンにも憧れました。当時の私の目には、あまりにも都会的に映って(苦笑)。
ショーケンの言によりますと、このオープニングシーンはフェリーニ映画でお馴染みのマルチェロ・マストロヤンニ主演の映画「最後の晩餐」(1973)を観て思いついたそうです。
「最後の晩餐」は、ある屋敷に集まった4人の金持ちが、そこで美食を食らっては女性とやりまくるというB級デカダン映画です。ちっとも面白くありませんけど、興味のある方はご覧になってみてください。
で、「傷だらけの天使」の内容はと申しますと、探偵事務所に雇われている二人の若者、すなわちショーケン演じるオサムと水谷豊さん演じるアキラが、数々のヤバい事件に関わりながら、社会の理不尽さ、大人の醜さに反抗するという、まぁ言ってみれば一種の青春ドラマです。
頭をポマードべったりのリーゼントにしたロカビリースタイルのアキラがオサムを呼ぶ時の「アニキ―!」が、当時は流行語のようになりました。
上の写真にあるように、部屋の壁が赤いところなどは、フランスのヌーベルヴァーグの影響かもしれませんね。
昔は大島渚監督や吉田喜重監督が日本のヌーベルヴァーグと称されましたけど、私に言わせれば、真の日本のヌーベルヴァーグは、この「傷だらけの天使」です。
また、男ふたりのコンビという設定は、アメリカンニューシネマの傑作「真夜中のカーボーイ」(1969)を意識したのでしょうね。
では、他の登場人物をご紹介いたします。
オサムとアキラが働く探偵事務所の女ボスを演じるのは、勅使河原宏監督の名作映画「砂の女」(1964)が素晴らしかった岸田今日子さんです。
劇中、今日子さんは、いつも蓄音機でポーラ・ネグリが歌う古いドイツの曲を聴いているのですけど、それがまた彼女のミステリアスな雰囲気にマッチしていて、とても素敵です。
探偵事務所のナンバー2、辰巳五郎を演じるのが、岸田森さんです。
好きだったなぁ、岸田森さん。前野曜子さんの記事でご紹介した松田優作主演の「蘇える金狼」(1979)や、若山富三郎さん主演の「子連れ狼」シリーズや、菅原文太さん主演の「ダイナマイトどんどん」(1978)でも活躍なさいましたよね。
また、「アラビアのロレンス」(1962)がテレビ放送された時には、ピーター・オトゥールの声を吹き替えていらっしゃいました。
私が岸田森さんを初めて知ったのは、子供の時に観た円谷プロ制作の特撮ドラマ「怪奇大作戦」と「帰ってきたウルトラマン」においてでした。岸田さんは名優でありながら子供向けのドラマにも積極的に出演なさっていたのです。
「帰ってきたウルトラマン」で岸田さんが宇宙人に殺されるシーンは、残酷すぎてトラウマになりました(汗)。
映画「マタンゴ」(1963)の記事でいちどご紹介した「怪奇大作戦」では、第25話「京都買います」が印象深いです。実相寺昭雄監督による幻想的で大人っぽい岸田さんの恋物語。昔の子供番組はレベルが高かったですね。
先ほど岸田さんは子供向けドラマにも積極的に出演したと書きましたけど、その反対に平気な顔をしてポルノ映画にも出演しているんですよね。谷ナオミさん主演の「黒薔薇昇天」(1975)です。たぶん監督が神代辰巳だから出たのでしょうけど、いかにも楽しそうに怪演しておりました(笑)。
こんな風に、ジャンルにこだわらずに何でも演じるのが、岸田さんの素晴らしいところです。
岸田さんの怪演は「傷だらけの天使」の中でもたっぷり堪能できまして、たとえば第5話「殺人者に怒りの電光を」では、突然かつらを脱いでスキンヘッドになりますし、
第11話「シンデレラの死に母の歌を」では、オサムになりきって色っぽいお姉さまとナニしようと企みます(苦笑)。
岸田森さん。素晴らしい俳優でした。早世なされたのが誠に残念です。
探偵事務所の秘書を演じたのが、ホーン・ユキさんです。
彼女はザ・シュークリームというアイドルグループ出身で、当時はセクシーな若手女優として、たいへん人気がありました。
ところが、ある俳優との不倫で人気が凋落。表舞台から姿を消してしまいます。
今年の3月20日に放送されたテレビ番組「爆報!THEフライデー」によれば、現在は工事現場で警備員をしながら舞台の仕事をなさっているそうです。
ま、色々あるのね、人生は・・・
では、「傷だらけの天使」の中から、私の特にお気に入りのエピソードをご紹介いたします。
まずは第2話「悪女にトラック一杯の幸せを」。
この回には日本のアンナ・カリーナ(当ブログの記事「ゴダールの映画」参照)と呼ばれた(?)緑魔子さんがゲスト出演しております。
魔子さんのセクシーな魅力がたまらない作品です。今の女優さんとは明らかに違いますね、存在感が。
第3話「ヌードダンサーに愛の炎を」。
こちらもセクシーですよ。当ブログの記事「女の子のためのスポ根ドラマ」で一度ご紹介した中山麻理さんがストリッパーを演じ、細いボディにたわわすぎるバストという《圧倒的なスタイル》で視聴者を悩殺いたします。
私も中学生の時にこの回を観て感動しましたもの、麻理さんのおっぱいに。
ちなみに、話は逸れるのですけど、新潟県のご当地アイドル、Negicco(ネギッコ)が歌う「圧倒的なスタイル」(作詞作曲・connie)という曲が、私は好きです。2012年にフジテレビのバラエティ番組「めちゃ×2イケてるッ!」のエンディングテーマ曲に採用された時に知ったのですけど、ノリが良くて楽しい曲ですよね。
ご存知ない方は、ぜひ一度ユーチューブで聴いてみてください。
踊ろうよ Paradise!
君だけのステップ見せつけて
誰も追いつけない
圧倒的なスタイル
・・・えー、話を「傷だらけの天使」第3話に戻しまして、この回にはショーケンが都家かつ江さん演じるストリップ劇場の座長に無理やり犯されるという、とっても楽しいシーンがあります。何度観ても笑えますよ。
それにしても、この回は浅草ロック座の本物のストリッパーが多数出演しておりますし、現在ではとても制作できないのでしょうね、こんな話。昔のテレビはホント豊かでした。
第4話「港町に男涙のブルースを」。
「傷だらけの天使」の全エピソードの中で、私が最も好きな回です。
麻薬密輸事件でショーケンが「昭和残侠伝」シリーズでお馴染みの池辺良さんとからみます。
また、この回には荒砂ゆきさんという、いかにも怪しげなセクシー女優さんがゲスト出演しております。
先の緑魔子さんといい、この荒砂ゆきさんといい、後で登場する桃井かおりさんといい、この時代の女優さんには、生まれ育った家庭が想像できない、正体不明な魅力を持つ方が多いですね。
酒場でのショーケンと池辺良さんのシーンが大好きです。
第7話「自動車泥棒にラブソングを」。
自動車泥棒の金を奪ったオサムとアキラと川口晶さん演じる女が3人で逃避行するお話なのですけど、これが日本版ロードムービーの傑作と言うべき作品に仕上がっております。
川口晶さんは石立鉄男さんと大原麗子さん主演のテレビドラマ「雑居時代」や角川映画「犬神家の一族」(1976)等で活躍した演技派の女優だったのですけど、大麻使用で捕まって以降、表舞台から姿を消したのが誠に残念です。
才能のある女優さんだったんですけどね。現在は確か陶芸家をなさっているそうです。
第10話「金庫破りに赤いバラを」。
この回には、映画「金環蝕」(1975)の記事や「必殺シリーズ」の記事でご紹介した、色っぽい川崎あかねお姉さまがゲスト出演しております。それと写真家の加納典明さんが殺し屋役で出ておりましたな。ま、ただそれだけなんですけど(苦笑)・・・
第12話「非情の街に狼の歌を」。
ストリップを鑑賞中のアキラが興奮して急に「うっ」と鼻を押さえて上を向くと、鼻血がたらりと流れるシーンが、可笑しくて可愛くて大好きです。
第14話「母のない子に浜千鳥を」。
オサムの息子の育て親役で、桃井かおりさんがゲスト出演しております。
桃井かおりさんは、当ブログの記事「大好きな日本映画その2」でご紹介した映画「青春の蹉跌」(1974)でショーケンと共演しておりますし、「前略おふくろ様」でもショーケンと共演しますので、この時期ショーケン組の女優というイメージが強かったです。
ショーケンがスーツ姿のまま温泉に入るシーンが好きでした。
第24話「渡辺網に小指の思い出を」。
オサムの幼馴染役で坂口良子さんがゲスト出演しております。坂口さんはこの後「前略おふくろ様」でもショーケンと共演することになります。
坂口さんは、同じ時期、松田優作主演のドラマ「俺たちの勲章」にもレギュラー出演しておりますし、ショーケンと優作の両方から愛された女優でした。可愛くて演技が上手いから当然ですわな。
ちなみに「俺たちの勲章」の中では、テレビドラマ「ワイルド7」で主人公の飛葉ちゃんを演じた小野進也さんがゲスト出演した第12話「海を撃った日」がいちばん好きです。
・・・再び話を「傷だらけの天使」第24話に戻しまして、この回ではショーケンと真山知子さんによる風呂場のシーンが忘れられません。
真山知子さんは、演出家・蜷川幸雄さんの奥さんで(つまり映画監督・蜷川実花さんのお母さん)、映画「子連れ狼 子貸し腕貸しつかまつる」(1972)や「祭りの準備」(1975)等で活躍なさった、とても色っぽい女優さんであります。
第26話「祭りのあとにさすらいの日々を」。
「傷だらけの天使」の最終回です。
風邪をこじらせて死ぬアキラ。そのアキラをドラム缶の風呂に入れて洗い、夢の島へ捨てに行くオサム。せつなすぎるラストでした。
最後にかかる曲は、デイブ平尾さんが歌う「一人」(作詞・岸部一徳、作曲・井上堯之)。心に滲みる名曲です。
夢のような過去は消えてゆく
一人だけでただ歩く
もう誰もいない
今の俳優を見ていて不満なのは、刑事を演じても探偵を演じても、それだけなところです。それ以上の何かが無いところです。
ショーケンや松田優作からは、いつも役柄以上の何かを感じました。彼らの場合、刑事を演じても探偵を演じても、感じるのは常にショーケンや優作という人間でした。彼らの強烈な個性でした。魂でした。パッションでした。そこに私たちは最も惹かれたのです。
ショーケンの個性だけで作ったような「傷だらけの天使」。もし、まだ観ていない方がいらっしゃいましたら、ぜひご覧になってみてください。
これぞ日本のテレビドラマの最高傑作です。