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天井桟敷の人々

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 今日から7月。後半戦のキックオフです。がんばっていきましょう。
 
 特にコメントしたいニュースもありませんので、とっとと本題に入りますね。そうじゃなくても最近わたしのブログは長文化の傾向が甚だしく、読む方もたいへんでしょうけど、書いている私もしんどくてたまりませんので(汗)、なるべく短いブログを心掛けたいと思います。あはは。
 
 さて、このところ映画に関しましては、ヴィスコンティアントニオーニパゾリーニコクトー、と《高級な》な話題が続いておりますけど、今回もそうでして、いよいよ《芸術映画の王様》と呼んでも過言ではないマルセル・カルネ監督の不朽の名作「天井桟敷の人々」(1945)をご紹介いたします。
 
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 この作品に関しましては、一度チャップリンの記事で引用させていただいた映画評論家・佐藤忠男氏の「世界映画100選」(秋田書店刊)を参考にして解説させていただきますね。ちなみにこの本は私が映画少年だった中学生の時に買ったものです。
 
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 第二次世界大戦時、フランスはドイツに占領され、そのためフランス映画界の多くの人が外国へ亡命いたしましたが、中には母国フランスに留まって映画を作り続けた人がおりました。
 その一人がマルセル・カルネ監督です。
 カルネ監督がドイツ占領下にあった1942年に撮った作品が「悪魔が夜来る」です。
 
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 15世紀、ユーグ男爵の城ではアンヌ姫と騎士ルノオの結婚式が盛大におこなわれていた。そこへ現れたのはジルとドミニクという吟遊詩人の兄弟。
 
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 実は二人の正体は悪魔の手下であり、それぞれアンヌ姫とルノオを誘惑して、二人を破滅させる使命を帯びてやって来たのだった。
 ところが、ジルが本気でアンヌ姫に惚れちゃったから、さあ大変。ボスである悪魔は怒って二人を石像に変えてしまうものの、それでも愛する二人の心臓は鼓動し続けるのであった・・・
 
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「悪魔の命令でも人間の情熱を抑えることはできない、というこのテーマが、ドイツ軍占領下のフランス人のレジスタンス精神を鼓舞するものであることは言うまでもない」(佐藤忠男)
 
 アンヌ姫を演じるのは、マリー・デア。彼女はコクトーの映画「オルフェ」(1949)で、主人公オルフェの妻を演じました。
 コクトーは「オルフェ」で「天井桟敷の人々」のマリア・カザレスも使っているし、余程カルネ作品がお気に入りだったのでしょうね。この「悪魔が夜来る」なんかは、いかにもコクトー好みの題材ですものね。
 
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 また、アンヌ姫と恋に落ちるジルを演じたのは、アラン・キュニー。彼は後に映画「エマニエル夫人」(1974)でエマニエルに性の極意を伝授する怪しいジジイを演じることになります。
 
 で、この「悪魔が夜来る」に引き続き、ドイツ占領下のフランスで、脚本を担当した詩人ジャック・プレヴェールとマルセル・カルネ監督の名コンビが作り上げた上映時間3時間半の大作映画が、今回取り上げる「天井桟敷の人々」なのです。
 
 パントマイム役者のバチストは、自分を慕う座長の娘ナタリーと結婚し子供まで生まれたのに、色っぽい年増の女優ガランスが忘れられない。
 ガランスの周りには、同じように彼女に恋するシェイクスピア俳優のルメートルや泥棒詩人のラスネールなどがいる。
 ついに結ばれるバチストとガランス。しかし、ガランスはナタリーのことを気遣い、姿を消す。必死にガランスを追うバチスト。しかし、通りを埋め尽くした群衆に遮られ、二人は永遠に離ればなれとなるのであった・・・
 
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「厳しい検問下で今日的なテーマは扱えないから、十九世紀ルイ・フィリップ治下のパリの歓楽街を題材にとって、役者や放蕩無頼の作家、純情娘や大姐御たちの織りなす一大風俗絵巻をくりひろげる。名優ぞろいで心ゆくまで大芝居をたのしませ、軍事的には敗北しても文化は決して滅びない、と声を大にして叫んでいるかのようである」(佐藤忠男)
 
 本作の魅力の大きな部分を占めているのが、プレヴェールの脚本です。セリフのひとつひとつが決まっていて、これはもう文学ですね。「天井桟敷の人々」は文学作品であるとも言えるでしょう。
 山田宏一氏の翻訳による本作の魅力的なセリフをいくつか引用してみますね。
 
「誰も愛さない・・・絶対の孤独! 誰からも愛されない・・・絶対の自由!」
 
「恋なんて簡単よ」
 
「哲学者は死を想い、美しい女は恋を想う」
 
「女は誰のものでもない以上、嫉妬はすべて男のものだ」
 
「好いた同士にはパリは狭いわ」
 
「そんなにお金持ちでいて、貧乏人なみに愛されたいなどと・・・貧しい人たちから何もかも奪りあげてはいけないわ」
 
「あぶない、気をつけることだ! ふりかえると、過去は狂犬のように噛みつく」
 
 バチストを演じるのは、ジャン・ルイ・バロー。舞台演出家でもある彼のパントマイムはホントお見事です。何でも有名なパントマイム役者マルセル・マルソーと同じ先生からパントマイムを学んだとか。「ザ・ベストテン」の頃の久米宏さんみたいな優男ぶりも素敵でした。
 
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 そのバチストを愛し、彼の妻となる純情娘を演じたのが、マリア・カザレス。コクトーの「オルフェ」でオルフェに恋する死神を演じた人です。「オルフェ」では大姐御の役でしたけど、こちらでは可愛い女の子を見事に演じていました。
 
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 シェイクスピア役者ルメートルを演じたのは、ピエール・ブラッスール。彼は当ブログの記事「ユーチューブで観た映画」でご紹介した「顔のない眼」(1959)に出演していました。
 
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 泥棒詩人ラスネールを演じたのは、マルセル・エラン。「悪魔が夜来る」の騎士ルノオ役に続くカルネ作品への登場です。ニヒルで貫録があってカッコいい人ですよね。
 
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 彼を見るたびに名作テレビドラマ「雑居時代」の時の石立鉄男さんを思いだすのは私だけでしょうか? このドラマでは大原麗子さんが最高に美しかったですよね。
 
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 そして、バチストが想いを寄せる憧れの女性ガランスを演じたのが、アルレッティです。フランスのディートリッヒという感じの色っぽいお姉さまですね。カルネ作品では「北ホテル」(1938)、「悪魔が夜来る」のドミニク役に続いての登場です。
 
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 アルレッティで特筆すべき事として、彼女は私が最も愛する作家セリーヌと共にレコードを吹き込んでいるんですよね、シャンソンか何かを、俳優のミシェル・シモンと3人で。その時の様子を写した写真が何枚か残っています。
 
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 セリーヌとアルレッティは仲良しだったようです。
 
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 仲睦まじい二人。
 
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 ミシェル・シモンは、山中貞雄監督の記事でご紹介したジャン・ヴィゴ監督の映画「アタラント号」(1934)などに出演した名優です。
 
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 もう一枚。
 
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 ・・・えー、話を「天井桟敷の人々」に戻しますね。
 
 最後はやはりこの作品に関する佐藤忠男氏の言葉で締めたいと思います。
 
「まことに大芝居であり、歓楽つきて哀愁を知る、これはこれ、文化の爛熟のきわみに咲いたフランス歌舞伎は世話物の世界」 

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