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記憶に残る本(日本文学篇)

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 また痛ましい事件が起きました・・・長崎県佐世保市の女子高校生による同級生の殺害・・・ショッキングですね・・・加害者にとっても被害者にとっても不幸な事件です・・・
 報道によれば、犯人の女の子は以前から小動物を殺しては解剖するという問題行動を続け、さらに小学生時代には何と学校給食に毒物を混入するという事件を起こしていたとか・・・
 もっと以前に何らかの措置を施しておけば今回の事件は防げたのではないでしょうか?
 それなのにマンションで一人暮らし? まだ16歳の女子高校生なのに? 父親は地元の名士らしいですけど、いささか疑問ですよね、子供の育て方が・・・それとも娘と一緒に暮らしたら自分たちが殺されると怯えていたのでしょうか?・・・まさかね・・・
 
 いずれにしても思春期の人間には、何をしでかすか分からない、とても不安定なところがあります。
 
 思春期といえば、前回の記事の中で高校時代の私の友人M君が訳したザ・ドアーズのジム・モリソンの詩をひとつご紹介いたしましたけど、そのM君が大学受験に失敗して浪人していた私に、一篇の詩を捧げてくれた事がありました。今回はまずその詩をご覧いただきますね。
 タイトルは「無題(浪人生ふじまるに贈る)」です。
 
   ファインマン時計は
   今夜も
   相対的な時間を与え
 
   大気のくしゃみで何も見えない
 
   茂みの向うで
   車のエンジンをふかす音がする
 
   aetherの座標系に
   はりついた
   女の乳首達が
   天の川に
   黄色いうみを流す
 
 ま、私にはさっぱり意味の分からない詩ですけど、こんな風に意味不明な言葉を書き連ねられる才能はたいしたものだと思います。
 M君はその後も詩を書き続けたのでしょうか? それとも彼の詩は単なる思春期の戯れで終わってしまったのでしょうか? 私はその後のM君を知りませんから何とも言えませんけど、彼には確かに文学の才能があった、と私は思っております。
 
 ・・・という事で本日は文学のお話を・・・単独で取り上げる程の知識は持ち合わせていないのですけど、大好きで記憶に残る日本文学作品を、いくつかまとめてご紹介させていただきます。
 
 
 ☆ 上田敏「海潮音」
 
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 言わずと知れた、西洋詩を見事な日本語の詩に変え、その後の日本文学の発展に大きく寄与した、翻訳詩集の大傑作です。
 カール・ブッセの「山のあなた」が特に有名ですよね。落語家の三遊亭円歌師匠が昔「山のあな、あな・・・」とネタにしていらっしゃいました。
 
 私はシャルル・ボードレールの「信天翁(おきのたゆう=アホウドリ)」という詩が気に入っています。俗世間における詩人(もしくは芸術家)の悲哀をアホウドリに譬えて歌った詩です。私は詩人でも芸術家でもありませんけど、それでも身につまされます。
 
   波路(なみじ)遥けき徒然の慰草(なぐさめぐさ)と船人は
   八重の潮路の海鳥(うみどり)の
   沖の太夫(おきのたゆう)を生取りぬ
   舵の枕のよき友よ 心のどけき飛鳥かな
   津潮騒(おきつしおさい)すべりゆく 舷(ふなばた)近くむれ集う
   ただ甲板に据えぬれば げにや笑止の極みなる
   この青雲の帝王も足どりふらら拙くも
   あはれ真白き双翼はただ徒に広ごりて
   今は身の仇 益(よう)も無き二つの櫂と曳きぬらむ
   天飛ぶ鳥も降(くだ)りては やつれ醜き痩せ姿
   昨日の羽根のたかぶりも 今はた鈍(おぞ)に痛はしく
   煙管(キセル)に嘴(はし)をつつかれて 心無しには嘲けられ
   しどろの足を模(ま)ねされて 飛行(ひぎょう)の空に憧るる
   雲居の君のこのさまよ 世の歌人(うたびと)に似たらずや
   暴風雨(あらし)を笑い 風凌(しの)ぎ 猟男(さつお)の弓をあざみしも
   地(つち)の下界にやらはれて 勢子(せこ)の叫びに煩へば
   太しき双(そう)の羽根さへも起居(たちい)妨ぐ足まとひ

 
 
 ☆ 吉行淳之介「砂の上の植物群」
 
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 ある中年男がひとりの少女と出会い肉体関係を結ぶところから物語が始まり、やがて父と息子の相克が浮かび上がってくる吉行淳之介の傑作小説です。
 細かい破片が集まってきて最後に形が出来上がるような技巧的な構成が大好きでした。
 
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 吉行淳之介って、ダンディでカッコいい人でしたよね。これぞ作家という雰囲気がありました。
 大学生の時に所属していた文学サークルにも吉行文学のファンがたくさんいて、みんな吉行先生の作品・・・本書や「暗室」や「夕暮れまで」を愛読していました。
 私は村上龍セリーヌでしたけどね。あはは。
 
 「砂の上の植物群」というステキなタイトル(「植物群」というところが効いている)は、パウル・クレーの絵から借用されています。
 吉行先生は他にも「疾走する都会」や「まだそこにある黒」といったクレーの絵のタイトルがお気に入りだったようです。確かに詩的で、いい響きの言葉ですよね。
 
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 本書は1964年に仲谷昇さん主演で映画化されています。私は観ておりませんけど。
 
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 ヒロイン役は西尾三枝子さんという女優さんでした。きれいで清純そうな方ですね。
 
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 ☆ 大江健三郎「人間の羊」
 
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 川端康成に続く日本人2人目のノーベル文学賞作家・大江健三郎の初期の傑作です。新潮文庫に「死者の奢り」や「飼育」と共に収録されています。
 
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 満員バスの中で進駐軍のアメリカ兵からひどい侮辱を受けた主人公。他の乗客たちは見て見ぬふりを決めこんでいたくせに、アメリカ兵が立ち去るや口々に文句を言い始め、終いにその怒りはアメリカ兵を訴えようとしない主人公へ向かうという人間の弱さや卑怯さを見事に描き出しています。大好きな作品です。ぜひご一読を。
 
 
 ☆ 泉鏡花
 
 鏡花は真の文章家です。日本語の魔術師です。三島由紀夫が「文章読本」に引用した「日本橋」の冒頭部分をお読みください。
 
 「お客に舐めさせるんだとよ」
 「何を」
 「その飴をよ」
 腕白ものの十ゥ九ッ、十一二なのを頭(かしら)に七八人。春の日永(ひなが)に生欠伸(なまあくび)で鼻の下を伸ばして居る、四辻の飴屋の前に、押競饅頭で集まった。手に手に紅だの、萌黄(もえぎ)だの、紫だの、彩った螺貝(ばい)の独楽(こま)。日本橋に手の届く、通一つの裏町ながら、撒水(まきみず)の跡も夢のように白く乾いて、薄い陽炎(かげろう)の立つ長閑(のどか)さに、彩色した貝は一枚一枚、甘い蜂、香しき蝶に成って舞ひそうなのに、ブンブンと唸るは虻(あぶ)よ、口々に喧(やかま)しい。
 
 どうです? 文章に色彩が氾濫していますでしょう? お見事です。こんな華麗な文章が書ける作家は鏡花以外にはおりません。
 
 鏡花の作品はいくつか映画化されておりますけど、傑作は鈴木清順監督の「ツィゴイネルワイゼン」(1980)の記事でご紹介した「陽炎座」(1981)と、そして寺山修司が監督した「草迷宮」(1978)です。
 
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 寺山修司の映画って、タイトルやスチール写真を見る分には面白そうなのに実際に観るとガッカリというのが多いのですけど、この「草迷宮」だけは別。これは傑作。素晴らしい。
 
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 特に鏡花の小説ではお馴染みの妖怪たちを寺山修司お得意の見世物小屋キャラクターで表現したところが秀逸です。関取姿の女妖怪が可愛くて好きだわぁ。
 
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 また、寺山作品の常連で彼の愛人だった新高恵子さんの妖艶な魅力がたまりません。
 
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 「高野聖」でも「草迷宮」でも「陽炎座」でも「夜叉ヶ池」でも鏡花の作品に登場する妖怪たちは、みな心優しい奴らばかりなんですよね。そこがまた好きです
 
 
 ☆ 夢野久作「ドクラ・マグラ」
 
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 一応これは推理小説のジャンルに含まれるのですかね? 学生時代に一度読んだものの、よく意味が理解できませんでしたので、私には判断できないのですけど・・・何となく映画「カリガリ博士」(1920)に似た感じだったような印象があるのですが・・・
 
 日本の推理小説には本書のようなおどろおどろしい作品が多いですよね。江戸川乱歩の「屋根裏の散歩者」とか横溝正史の「八つ墓村」とか小栗虫太郎の「黒死館殺人事件」とか。ポーの作品から純粋推理の部分よりも怪奇趣味の部分をより多く受け継いだのでしょうね。それが日本人の気質に合っていたのでしょうか?
 
 本書は1988年に映画化されておりますけど、私は観ておりません。
 
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 おススメの小説というわけではないのですけど、有名な作品ですし、なぜかファンも多いので、いちど挑戦してみるのもいいかもしれませんよ。私が本書を読み返す事はありませんけどね。あはは。
 
 
 ☆ 坂口安吾
 
 「ドグラ・マグラ」のところでご紹介した横溝正史等おどろおどろしい日本の推理小説作家・・・さしずめ坂口安吾もその一人に加えられるのでしょうね。
 
 坂口安吾・・・私のいちばん好きな日本人作家です。
 下の写真は仕事部屋での安吾ですけど、迫力がありますよね。雑然とちらかった部屋も、いかにも安吾らしくてステキ♡
 
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 とは言うものの、私は作家としての安吾をそれほど買っているわけではありません。作家としては太宰治の方が遥かに上でしょう。
 ただし、太宰があくまでも純文学作家であったのに対し、安吾は純文学のみならず歴史小説、推理小説の世界でも活躍します。純文学作家としては太宰に劣り、歴史小説作家としては吉川英治や司馬遼太郎に劣り、推理小説作家としては江戸川乱歩や横溝正史に劣るものの、トータルではトップという感じです。
 
 そして、「堕落論」を初めとする安吾の評論やエッセイ、こちらの方により安吾の本領があるように私は思います。私なんぞは安吾の語り口に魅了され、夢中になって彼の評論やエッセイを読み漁ったクチです。
 「堕落論」、「青春論」、「日本文化私観」、「安吾巷談」、「風と光と二十の私と」、「我が人生観」etc・・・小林秀雄を論じた「教祖の文学」という評論も好きでした。
 
 安吾の純文学作品としては「白痴」や「青鬼の褌を洗う女」でしょうか? 「桜の森の満開の下」という残酷童話も有名です。
 
 歴史小説には、「信長」、「家康」、「道鏡」、司馬遼太郎の「国盗り物語」の前に斉藤道三を描いた「梟雄」、今年のNHK大河ドラマの主人公である黒田官兵衛を描いた「二流の人」などがあります。
 
 また、安吾は「安吾の新日本地理」や「安吾の新日本風土記」などのエッセイで、日本の古代史に関する大胆な仮説を展開しています。たとえば蘇我入鹿は天皇だったとか(飛鳥の幻)。これらもたいへんに興味深いです。
 
 推理小説では勝海舟が探偵として事件の謎解きをする「明治開花 安吾捕物帖」が面白かったです。いつも海舟の推理が外れて。
 本書の海舟は日常ナイフで頭の後ろを少し切って汚れた血をしぼり出す健康法を実践しているのですけど、そのシーンも強く印象に残りましたね。
 
 で、安吾の推理小説の代表作といえば、やはり何と言ってもこれ。「不連続殺人事件」です。本書は1977年に映画化されました。
 
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 映画自体は内田裕也さんがやたらにギャーギャー騒ぐ凡作でしたけど、当ブログの記事「(秘)色情めす市場その1」でご紹介した泉じゅんさんが出ていたのが良かったです。「犬神の悪霊」(1977)とか、当時この手のカルト映画には欠かせない美女でしたね、じゅんさんは。
 
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 それから、映画「金環蝕」(1975)や「喜劇女売出します」(1972)、テレビドラマ「シルバー仮面」に出演していた夏純子お姉さまも出演していました。色っぽいわぁ、純子お姉さま。
 
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 安吾原作の映画化作品といえば他に今村昌平監督の「カンゾー先生」(1998)が面白かったです。
 
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 母親が娼婦で自分も時おり売春してお金を稼いでは弟に食べ物を与える麻生久美子さん演じる娘がいじらしくて可愛くて好きでした。
 いい女優さんですよね、麻生さんは。
 
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 麻生さんは映画「RED SHADOW 赤影」(2001)の女忍者役も可愛かったですね。
 
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 坂口安吾・・・日本文学界の巨人です。日本のブコウスキーです。彼の文章からは父親的な頼もしさが感じられます。まずは「堕落論」あたりから読んでみてください。
 引き込まれますよ、安吾の文章に。

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