じめじめした梅雨空の初夏におくる私の大好きなセクシー系映画特集の第3回目。今回ご紹介する作品は、デヴィット・リンチ監督の「ブルーベルベット」(1986)です。
デヴィット・リンチはご存知ですよね? テレビシリーズ「ツイン・ピークス」(1990~)の大ヒットにより今や世界的な巨匠で、日本にもファンが多い映画監督です。
彼は独特の美意識というか、こだわりというか、感性の持ち主で、それは下に載せた「ツイン・ピークス」の一場面をご覧いただくだけでも、お分かりいただけると思います。
薄暗く、レトロで、謎めいていて、奇形たちが跋扈する、エロティックで妖しい世界が、リンチ監督のお好みです。寺山修司の嗜好に近いですね。
リンチ監督は、ティム・バートン監督と同じく、《史上サイテーの映画監督》と讃えられる(?)エド・ウッドの大ファンだそうですけど、分かるなぁ。エド・ウッドのチープで見世物小屋的な世界が好きそうですものね、彼は。
見世物小屋なんて現代ではもう絶滅してしまいましたが、私が子供の頃まではまだ少し残っていて、お祭りに来た「へび女」の見世物小屋へ行ったことがあります。恐ろしげな顔をしたおばちゃんが、細長い蛇ちゃんを鼻から入れて口から出すやつ。
看板がやたらにおどろおどろしいだけで、中身は単純でたいしたことないショーでしたけど、それでもまた観たいなぁ。何か人を惹きつける魅力がありますよね、こういうものには。
低予算の自主製作映画「イレイザーヘッド」(1976)で認められたデヴィット・リンチ監督は、続く「エレファント・マン」(1980)の大ヒットにより、いちやく世界のトップ監督に躍り出ます。
ところが、その勢いに乗って次に監督したSF超大作「デューン/砂の惑星」(1984)が大コケ、今度は一転、監督生命の危機に陥ります。
この危機を脱すべく、リンチ監督が低予算で必死に作り上げた起死回生の一作が、今回の「ブルーベルベット」なのです。
「ブルーベルベット」の成功により、リンチは映画監督を続けられることとなりました。もっとも、その後、彼は本作を超える作品を残しておりませんが。
ボビー・ヴィントンの歌う1963年の大ヒットナンバー「ブルーベルベット」が流れる中、のんびり庭で芝生に水を撒いていた老人が、とつぜん倒れる。
老人が倒れた芝生の地下では、昆虫たちがグロテスクにザワザワと動き回っている。ここらへんはいかにもリンチらしい表現です。
父親が急病で倒れたという知らせを受けた大学生の息子ジェフリーは、久しぶりに実家のある田舎町へ戻って来る。
故郷の町を散歩中、雑木林の中で切断された人間の耳を見つけたジェフリーは、かねてからの知り合いで、ガールフレンドのサンディの父親でもある刑事に、その耳を届ける。その後、サンディから、クラブ歌手のドロシーが事件に関係しているらしいという情報を聞き出す。
すっかりこの事件に興味を持ったジェフリーは、真相を解明すべく、害虫駆除係に扮してドロシーのアパートへ忍び込む。
そこで明らかになった真相とは?
何とドロシーは、ヤクザ者のフランクに亭主と息子を人質に取られ、倒錯的な性行為を強要されていたのである。
ドレッサーの中にジェフリーが隠れているとは知らず、暴力をふるいながらサディスティックにドロシーを犯すフランク。その一部始終をドレッサーの隙間から盗み見ているジェフリー。エロいです。ゾクゾクします。
ドロシーを演じるのは、イザベラ・ロッセリーニ。
父親が「無防備都市」(1945)や「戦火のかなた」(1946)等の作品で知られるイタリア・ネオリアリズモの巨匠、ロベルト・ロッセリーニ監督、母親がハンフリー・ボガートと共演した「カサブランカ」(1942)で有名な大女優イングリット・バーグマン、という言わばサラブレツドです。
彼女の妖艶で退廃的な美しさがこの作品の魅力の大きな部分を占めているのですが、現在イザベラ・ロッセリーニを検索すると、やたらと顔の大きい地味なおばさんの写真が出てきます。
月日の流れは残酷です。
話が少しそれますけど、「桃尻娘」(1978)という、私が学生の頃ヒットしたエッチで楽しい映画がありました。
主演は松田優作主演の大人気テレビドラマ「探偵物語」にも出演していた竹田かほりさん。現在はロックミュージシャン甲斐よしひろ氏の奥さんですね。
この映画で竹田さんとコンビだったのが亜湖さん。上のポスターの向かって右側の女性です。決して美人ではありませんが、コケティッシュな魅力溢れる方でした。
ところが先日、亜湖さんを検索いたしましたところ、昔とは似ても似つかぬおばあちゃんの写真が・・・
大病を患われたそうですので仕方ないのでしょうけど、私とたいして違わない年齢なのに、この変わりようは・・・ちょっとショックでした・・・興味のある方は検索してみてください。
ま、考えてみれば、去年お亡くなりになった「エマニエル夫人」(1974)のシルビア・クリステルさんも、晩年はどっぷりおばちゃんになっていらっしゃいましたものね。
私が中学生や高校生の頃はお美しかったんですけどねえ・・・
それから私が中学生のとき観た中で最もコーフンした映画「青い体験」(1973)のラウラ・アントネッリさん。
彼女も皺伸ばしの整形手術に失敗してヒドイことになっているそうじゃありませんか。
人間、年は取りたくないものですねえ。つくづくそう思います。
・・・話を「ブルーベルベット」に戻しますね。
ドロシーを暴力的に支配するフランクを演じるのは、デニス・ホッパー。
ピーター・フォンダと共に作った「イージーライダー」(1969)で有名なポッパーが、狂気の男を演じます。
この作品からじゃないですかね、ホッパーが異常な悪役を演じるようになったのは。「スピード」(1994)など、晩年のポッパーは狂気の役柄を得意としていましたものね。彼にそれを開眼させたのが本作だと思います。
日本だったらショーケンが似合いそうな役柄ですね。
本作の中で、フランクはドロシーを犯す時、小さな吸引器でさかんに何かを吸い込んでいますが、ウィキペディアによるとあれは亜硝酸アルミのガスだそうです。それを吸うと性的興奮が高まるのだそうです。いわゆるアンパンみたいなものなのでしょうか? 経験が無いので、私にはよく分かりませんけど。
本作は、見てはいけないものをこっそり覗き込むような、ゾクゾクする感じがいっぱいの、何度も観なおしたくなる映画です。
オススメです。暗く淫靡なデヴィット・リンチの世界をご堪能ください。
クセになりますよ(笑)。